研究レポート

DATE:2022.06.30研究レポート

長年続けていた空手道が研究テーマをもたらし、視座は人間関係や社会システムへ

総合教育研究部 スポーツ?健康科学部門 末次 美樹 准教授

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空手道や自身の生活など身近なところからテーマを発見し、研究を続ける末次准教授。
どのように研究し、活かそうとしているのかも語ってくれた。

研究テーマの種

総合教育研究部 スポーツ?健康科学部門の科目「健康?スポーツ実習」、「健康スポーツ論」「生涯スポーツ実習」を担当しています。幼少の頃は将来は父親と同じ薬剤師になるつもりでいたので、まさか大学で教えることになるとは思ってもいませんでした。振り返ると、私の研究テーマは6歳の時に始めた空手道がきっかけとなっています。通っていた道場はレベルが高く、なかなか結果を出せなかった私は少し劣等感を抱くこともありましたが、辞めずに続けた結果、中学3年生の時に全国中学大会の個人戦で2位になり、県外の高校に入学することになりました。高校の恩師が駒澤大学を薦めてくださったので志望し、経済学部に入りました。大学卒業後は母校に戻って高校の教員として空手道部の顧問をする予定だったので、大学で社会?地理歴史?公民の教員免許を取得しました。

空手道部では先輩?同期?後輩に恵まれ、みんなと一緒に空手をするのが本当に楽しかったです。

芽生える疑問

20220630suetsugu_02公益社団法人 日本空手協会主催 第44回 全国空手道選手権大会
個人組手、団体形?組手に出場し全て優勝
2001年 於日本武道館

大学時代、一番印象に残っているのは4年次の東日本大会優勝です。私は試合の翌日から宮崎県の母校で教育実習があったので、決勝を見ることなく飛行機に乗り込みました。フライト直前に「女子が初優勝した!」と聞いて、機内で大泣きしたのが忘れられない思い出です。

卒業後は母校で教員になる予定でしたが、社会科に空きがなく、体育科の免許を取ってほしいと言われました。しかし、高校教諭を務めながら体育の免許を取る自信がなかったので、この際、体育の大学院に行こうと決め、大学院の授業とは別に学部の授業を受けて体育の免許を取り、それから母校に戻りたいと考えました。

大学院では体育哲学を専攻しました。かねてより「稽古や試合の前になぜ"礼"をするのだろう?」という疑問があり、形式としての礼(礼の作法等)は教えられましたが、礼の本質や意味を教えてもらう機会がなかったので、『武道と礼の研究』を始めました。

多様性を臨んで

武道の"礼"を突き詰めていったらどんどん武道から離れ、孔子の教えに行き着いてしまいました。礼の本質は「人間関係の調和」であり、目の前の人を敬い、人間関係をおろそかにしないという意味が含まれています。これを武道に当てはめて考えると、道場での立ち居振る舞いや様々な場面でのルールやマナーの遵守等にまで広がります。礼は「お辞儀」という作法として捉えられがちですが、目の前の相手との関係性をどう築いていくかといったコミュニケーションに近い要素を含んでいると私は考えています。

大学院修了時にご縁があり、駒澤大学へ戻ってきました。私の授業では"人間関係の調和"に繋がるコミュニケーション力を身に付けることを重視しています。理論の授業ではグループワークを通して、話すことが苦手でも、相手の言葉に対して相づちだけでもいいから、自分の意思をは"相手に伝えるは"ことができるようになってほしいと伝えています。実技では、色々なスポーツを楽しみながら、相手との関係性を築くことで、孔子の教えに通じるコミュニケーション能力の大切さを伝えています。

数年前から『空手道に携わる女性の現状』、『誰もが空手を続けやすい環境づくり』などの新しい研究テーマに挑んでいます。2016年に出産しましたが、それまで当たり前にできていた空手関係の活動がストップしてしまいました。「他の女性はどうやって活動しているんだろう?」と疑問に思ったのがこの研究を始めたきっかけです。

より自由な社会へ

20220630suetsugu_03日本武道学会 第52回大会にて研究発表
2019年 於國學院大學

研究を進めて浮き彫りになったのは、多くのスポーツや日本社会の活動システムが、ある限られた人達に向けて構築されているのではないか、という現状でした。私自身の環境の変化に応じて調査研究を開始しましたが、活動阻止の要因の背景に社会や組織のシステムが影響していることが判明し、個人の環境に左右されることなく誰もが活躍できる社会であってほしいと願うようになりました。「誰でもやりたい活動ができる、続けられる」社会になったら、今まで色々な縛りがあって活動できなかった方々も、多くの活動ができるようになると考えています。

私は空手を長く続けてきたわけですが、この継続がキャリアづくりに役に立っています。スポーツの目的は「試合で優勝したい」「良い成績を残したい」だけではありません。空手を始めた当初、なかなか結果が出ないながらも辞めることなく、ここまで空手をやってきた私だからこそ、「ずっと続けたい」「年を取ってからだけどやってみたい」という人たちがいつでも活動できる環境づくりに繋がる期待を込めて、この研究を続けていきます。

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総合教育研究部 スポーツ?健康科学部門 末次美樹 准教授
佐賀県生まれ。駒澤大学経済学部卒業。国士舘大学大学院スポーツシステム研究科修了。2008年より総合教育研究部 スポーツ?健康科学部門で教鞭を執る。2019年より関東学生空手道連盟 理事?評議委員。日本武道学会、日本スポーツとジェンダー学会、日本体育?スポーツ哲学学会、日本体育学会 所属。

※ 本インタビューは『Link Vol.11』(2021年7月発行)に掲載しています。掲載内容は発行当時のものです。

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