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DATE:2022.08.04記事一覧

僧侶であり、歴史息づく永平寺で修行した経験を研究に活かして多彩な視点から仏教民俗学を紐解く。

仏教学部 徳野 崇行 准教授

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フィールドが広く、独自の視点が重要となる宗教学の中で、徳野准教授の研究テーマはどのように変遷してきたのか。宗教学の魅力について話してくれた。

関心は宗教学へ

私は寺院の次男として生まれました。小学5年の時に「兄弟のどちらがお寺を継ぐか」という家族会議があり、兄が開口一番「継がない」と言ったので「じゃあ僕が継ぐよ」と言って、後継者として駒澤大学への入学を目指すことを決めました。とはいえ、当時はまだ小学生だったので「お寺がなくなって故郷がなくなるのは寂しいな」という感覚だったように振り返ります。

専門としている宗教学に興味を持ったきっかけは、駒澤大学の学部生時代に前学長の長谷部八朗先生(現?名誉教授)の授業を受けたことです。仏教の思想や歴史的なものだけでなく、広く宗教を学問として扱う「宗教学」に惹かれ、長谷部ゼミに所属して専門的に学ぶようになりました。

宗教学の魅力は、様々な調査?手法での研究が可能で、そのフィードバックとして宗教を肌で感じられるところだと思います。例えば、社会学や心理学などでは、その学問の研究手法が決まっていますが、宗教学では実に多用であるため、社会学的アプローチをしたり、心理学の手法を用いて研究してもいいわけです。

民俗学的視点を得て

20220704tokuno_02大本山永平での修行時代

また宗教学では、歴史学や民俗学等の間に「"先祖供養"や"仏壇"という視点から紐解いてみたら?」などの問題提起ができます。宗教学には学問のすき間を繋ぐ役割もあるため、新たな視点を見つけることが宗教学の大事なところで面白さでもあります。

長谷部ゼミの研究テーマは当時「仮面芸能」でしたから、卒業論文は能面の歴史について書きました。私は現在、宗教学の中でも「宗教民俗学」や「仏教民俗学」という領域を専門にしていますが、ゼミでの民俗学的な学びがベースになっていると感じます。

大学卒業後は大学院の修士課程に進み、博士課程に3年在籍後、曹洞宗大本山永平寺に1年間安居(修行)しました。その後、復学して博士の学位を取得しました。大学院へ進学したのは「仏教学部を卒業し、修行に行き、お寺を継ぐ」という流れから少し外れてみたかった気持ちもあったのかもしれません。

供養文化への広がり

博士論文のテーマは『日本仏教の追善供養』で、その頃から「供養文化」を様々な角度で研究しています。その基点は大学院で、供養の問題を研究されていた池上良正先生(現?名誉教授)のもとで学んだことです。先生と研究を共にする中で「供養」に関心が移っていった経緯があります。

さらに、永平寺での体験が「供養」への関心を高めてくれました。それまで私は本山を「修行の場」としか見ていませんでしたが、永平寺でも曹洞宗の檀信徒が集まって大きな法堂で供養を行います。その実情を目の当たりにして「供養の歴史を紐解いてみたい」と思ったのです。自分の宗教学者としての強みは僧侶であり、大本山永平寺に安居した経験があることだと考えています。僧侶でないと読めないような仏教的な文献を読み解くことができ、また、本山の僧侶の姿や、中世?近世の供養をイメージできるので、それを頭に浮かべながら理解することができるのです。

そして「供養」というテーマの中で「供養儀礼」や「先祖供養」、「仏壇」などについて研究し、2015年に論文『近世版本に描かれた仏壇と位牌―山東京伝の合巻を手がかりにして―』を発表しました。その後、仏教や宗教文化の領域の中で「一般の人々にとって身近なテーマを研究したい」と考え、「食」の研究を始めました。「食」を通して、禅の文化的側面へ研究領域を広げたいという思いもありました。2018年には近世の文献から特に「精進料理」を調査してまとめた論文『近世料理書から見た仏教と食―「青物」の料理から「精進料理」へ―』を発表しています。

東京の地縁を研究

20220704tokuno_03ゼミ生とフィールドワーク

ここ数年は"新しい葬儀の形"にも興味を持ち、弔いのトレンドについても調べています。これから研究してみたいと思っているのは"東京の地縁が今に生きる地域的な宗教文化と、それに紐づく江戸時代の人々の生活文化"です。世田谷区駒沢もそうですが、都内には江戸時代の宗教儀礼が残る地域がたくさんあるので"東京の地縁"という視点から調査してみたいですね。

私は現場へ行くことを重視していますが、徳野ゼミでも月1回フィールドワークを行い"宗教を肌で感じる"ことを大事にして、横浜中華街にある道教の宗教施設や浅草の鷲神社、日本最大のイスラム教のモスク?東京ジャーミイなどへ足を運びます。単なる情報はスマートフォンでも調べられるかもしれませんが、空気感や匂いはその場に行かなければ絶対に感じることができないからです。

学生の皆さんには常に問題意識を強く持ち、何かを読んだり知った時、それを客観的な視点から「なぜ自分はそう感じたのか」と問い、その問いを連鎖させて考え、より自分を高めていってほしいと思います。

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仏教学部 徳野 崇行 准教授
宮城県松島町出身。生家は寺院で小学生の時に得度。2011年 駒澤大学大学院人文科学研究科修了。博士(仏教)。2007年から1年間、曹洞宗大本山永平寺に安居。2012年から駒澤大学仏教学部で教鞭を執り、2019年より准教授。科目では「宗教学概論」「仏教と人間」「仏教民俗学」などを担当。日本宗教学会、「宗教と社会」学会 所属。

※ 本インタビューは『Link Vol.12』(2022年5月発行)に掲載しています。掲載内容は発行当時のものです。

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